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森枝卓士の旅の食卓

第1回 能登の朝ご飯〜地球の反対側で日本の極地の旨さを思い出した!!

能登の地震をチリで知った。

ワイナリーを訪ね歩く旅をしていたのだが、かの国も地震国。仕事相手がテレビで見たが大丈夫かと教えてくれた。それで、何事かとインターネットをチェックして、その状況など知ったという次第。あわててメールを入れたところがある。二つの宿である。

料理民宿さんなみ。湯宿さか本。かたや能登町にあり、かたや半島の先、珠洲にある、どちらも小さい宿である。さんなみに至ってはわずか三室。能登で地震と聞いて何よりもこの二つの宿が大丈夫かと、メールを入れたのだった。そうしながら、思い返すさんなみの朝ご飯。さか本の朝ご飯。外国で、かようなものを思い返すのは、ほとんど拷問のようなものである。 いや、旅を仕事にしている身であり、どこに行っても、土地の料理に適応するのだ。日本食に逃げなくても平気なのだ。それなのに、それを思い出して食べられないことが、拷問のように思えてしまう凄さ…。

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一夜干しの干物は、保存食でなく生き物。

夕方吊して朝食の頃、表面がセロファンのようにパリッと一枚膜が張ると潮風のいい匂いがして、網にくっつかずにきれいに焼ける。
囲炉裏にたっぷり炭をおこして、真っ赤になったらそおっとうっすら灰をかける。

火力が落ち始めたら、炭の底に火箸を差し込んで空気を送り、灰を落として火力を上げる。
それにしても・・・・

頭が下がるほどきれいな下仕事をする老夫婦。出来そうで出来ない、あたりまえの仕事・・・。

あと何年作ってもらえるのだろうか。

[写真]

さか本のホームページに、そんな記述がある。さか本の朝ご飯に登場する干物のことである。まったく、「御意」としか言いようがない。それほどに素晴らしい干物。干物っていう食べ物がこれほどのものかと、馥郁とした味わいを思い出してはため息をつく。

今まで食べていた「干物」と称するものは何だったかと思われてしまうほどの美味。

主人自身が、囲炉裏で焼いてくれるその干物。それに、前夜、登場した手作りの作りたて豆腐にあれこれ加えて、朝ご飯の直前に作られた熱々の飛竜頭。お味噌汁に漬け物といったところがその朝ご飯である。と書くと、それだけかと思われそうだが、一つ一つがあまりにも真っ当なのだ。ある意味、当たり前のもの。しかし、それが、今や貴重品になってしまったと嘆かざるをえないもの。

食べながら、さて、次はいつ食べられるのかとため息をついてしまうような朝ご飯。

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さんなみの朝ご飯は、また少し違う。

これでもかとあれやこれやと登場する。とはいえ、華美なものではない。味噌汁は、確か昨夜の刺身のアラの部分である。細々と出してくれるものも、お総菜、つまりふつうの家庭のちょっとした料理としかいえないようなものである。それが、滋味としか言いようがない美味しさなのである。

そして、さか本の干物に当たるのが、コンカイワシ。米糠に漬け込んだイワシである。能登では珍しくないものだが、市販のそれはせいぜい一年。ところが、さんなみ自家製のそれは二年、三年と寝かせたもの。これも食卓の炭火で焼くのだが、そのまま網にのせると崩れてしまうようなもの。稀少な一片を朴葉などにのせて、焼く。

あるいは、やはり自家製のイシリ(土地の魚醤)に漬けて、一夜干しにしたサヨリかカマス、内臓の入ったままのイカ。こちらも炭火で焼いては、熱々をいただくのだが、こう書きながら、お腹が空いてくるようなもの。コンカイワシの幅二、三センチほどのもので御飯の二杯は軽く食べられるだろう。というか、食べてしまうだろう。

内臓の入ったままのイカの干物。その旨さは何と例えればいいか。とろけ出す猥褻なまでの旨さを。

地震のために、おかげで異国で日本の極致のような旨さを思い出してしまう辛さ……。 そうそう。実はこの二軒。予約をとるだけでも大変な宿なのである。しかし、地震の風評被害で予約がいつもほどではないとも聞いている。いつまでそうだが分からぬが、トライしてみる価値はある。

書きながらまた行きたくなった。
その地球の反対側、チリで食べたり飲んだりの話は改めて。

森枝 卓志 Morieda Takusi [写真]

森枝 卓士 Morieda Takushi プロフィール

1955年熊本県水俣市生まれ。

国際基督教大学卒業後、フリーの写真家、ジャーナリストとして世界を駆けめぐる。特に食文化などの視点からの写真、レポートを新聞、雑誌に発表。調理にも足を踏み入れ、レシピ集なども執筆。

『新・食文化入門』『世界の食文化4ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』『デジカメ時代の写真術』『考える胃袋』など多数の著書がある。

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