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ちょっと一息、男の和菓子帖

黄金の日々

[2011年12月18日]

 

長崎の松翁軒は天和元年(1681年)創業、300余年の歴史のあるカステラの老舗です。
伝統の味をしっかりと守り、長崎県内にしか店舗を出さないという頑固なお店でもあります。
11代目当主となった山口喜三さんが取り組んだのは「五三焼」の復活です。
江戸時代、「五味かすてら」と呼ばれた上質のカステラがあり、
明治になると五三焼カステラと呼ばれるようにました。
山口さんが作る五三焼は鮮やかな黄金色をしています。
卵黄をたっぷりと使い、しっとりと、風味よく焼き上げています。
甘さはたっぷり、でも後味はあっさりとして、心まで豊かになそうな芳醇な味わいです。

 

カステラというのは南蛮貿易の時代に、
スペイン、ポルトガルから伝わった焼き菓子が元になっています。
ポルトガルには「パオ・デ・ロー」というカステラの原型とも思えるお菓子が伝わっており、
卵白を泡立てるとき「お城(カステロー)のように泡立てろ」というのです。
私はポルトガルには2度行きましたが、
日本のカステラのようにやわらかく、品のいいお菓子には巡り会えませんでした。
もっと素朴で、ぱさぱさとして甘さがくどいものが多いのです。

 

しっとりとして口どけよいカステラは日本の菓子職人が作り上げたものです。
松翁軒のカステラの材料は小麦粉、砂糖、卵、はちみつなどが少々。
いわゆる「膨張剤」は使いません。
泡立てた卵の力で、砂糖のたっぷり入った重い生地持ち上げるのです。
明治時代に、松翁軒のカステラはパリ大博覧会で名誉大銀盃受賞、
セントルイス万国博覧会で名誉大金牌を受賞しています。
日本の製菓技術に、欧米人がびっくり驚嘆したわけです。

 

先日、山口さんにお目にかかったとき、なぜ五三焼を焼こうと思ったのかうかがいました。
「五三焼には長崎の一番輝いていた日の記憶がこめられているからですよ」
16世紀に種子島にポルトガル人が漂着したことをきっかけに、
スペイン、ポルトガルとの貿易が始まりました。
日本が「西洋」と出会った瞬間です。
南蛮船に乗って、西洋の宗教、医学、芸術、遊び、料理……
あらゆるものが長崎に到着します。
鎖国が行われるまでの80年ほどの間、
長崎は日本一とんがって、おしゃれで、贅沢な場所だったのです。

 

当時たいへんな高級品であった砂糖や卵をふんだんに使ったカステラは、
長崎でこそ焼けるもの。
昔日の面影を今に伝えるものなのです。




 

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