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[2011年8月19日]
現在、乃木坂の国立新美術館では、
「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」
(http://www.ntv.co.jp/washington/index.html)が開催中だ。
(〜2011年6/12まで。以後、9/13〜11/27まで
京都市美術館で開催予定)。

エドゥアール・マネ 《鉄道》
1873年 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington /
Gift of Horace Havemeyer in memory of his mother,
Louisine W. Havemeyer

メアリー・カサット 《青いひじ掛け椅子の少女》
1878年 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington /
Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon

ポール・セザンヌ 《赤いチョッキの少年》
1888-1890年 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington /
Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon, in Honor of
the 50th Anniversary of the National Gallery of Art
マネの《鉄道》、モネの《日傘の女性、モネ夫人と息子》、
カサットの《青いひじ掛け椅子の少女》、
セザンヌの《赤いチョッキの少年》……と、
ワシントン・ナショナル・ギャラリー(以下、NGA)のコレクションから、
印象派・ポスト印象派の作品83点を紹介するこの展覧会は
同館のフランス近代絵画傑作選だ。
画集でもおなじみの重要作や、
各画家の代表作が目白押しのこの展覧会は、
NGAのパウエル館長が
「これほどの質と規模での展覧会は、
ワシントン・ナショナル・ギャラリー70年の歴史上なかったことであり、
そして、これからもないだろう」
というほどの豪華さである。
日本に居ながらにして、NGAの印象派・ポスト印象派の作品を
まとめて見ることができる機会なので、まだ行っていない人はご覧あれ。
というわけで、NGAの紹介であるが、
実は私は、この展覧会のホームページで
「ワシントンちょっと覗き見」
(http://www.ntv.co.jp/washington/column/index.html)
というコラムを担当している。
NGAの成り立ちや内部の様子などは、
その中でかなり詳しく書いているので、
詳しくはこちらを読んでいただきたいのだが、
一応、ダイジェストでNGAの概要を紹介しておこう。

ワシントン•ナショナルギャラリーの外観

国会議事堂
「ワシントン・ナショナル・ギャラリー」は、
ホワイト・ハウスや国会議事堂がある
ワシントンD.Cの中心地区「ナショナル・モール」に建つ。
アメリカの大富豪アンドリュー・メロンが、
自らのコレクションと美術館の創設資金を国家に寄贈したことが
きっかけとなり、1941年にオープンした。
現在、館のコレクションは12世紀から現代アートまで
約12万点を数えるが、そのすべてが、
アメリカ市民の寄贈や寄付で成り立っている。
しかも、観覧料はすべて無料!という、なんとも寛大な美術館だ。
実は、アメリカの美術館は、
日本人の美術関係者にとっても穴場(?)である。
たとえば数か月前、ある有名美術館のフランス近代絵画を専門とする
学芸員さん数名に「NGAに行ったことある?」と聞いところ、
訪問経験のある人は誰もいなかった。
だいたいフランス近代絵画を専門とするなら、
まずはオルセー美術館をはじめとするフランスの美術館へ、
イタリア・ルネサンスが専門なら、
フィレンツェのウフィッツイ美術館やバチカンの
サン・ピエトロ大聖堂など、イタリアに行くのが普通だろう。
有り余る経済力で作品を買いまくったアメリカにも
素晴らしい作品があることは重々承知していても、
なんとなく気になりながらも、
「(第二次大戦前までは)美術の本場はヨーロッパだし、
その作品が制作された現場ではないし……」という感覚が
どこかにあるのは確かである。
ところが、アメリカの富豪たちが
本気で集めた美術作品は、本当にスゴイ。
最近も「今まで無視してきたアメリカの美術館を何の気なしに訪れたら、
イタリア美術のコレクションの素晴らしさに仰天した」という
イタリア・ルネサンス専門の日本人教授の話を聞いたばかりだが、
NGAが扱う視覚芸術、とくに絵画のコレクションに関して言えば、
「質量ともにルーヴルに匹敵する」という言葉もうなずけよう。

ワシントン•ナショナル•ギャラリー パンフレットより
《ジネブラ・デ・ベンチの肖像》 ワシントン•ナショナル•ギャラリー パンフレットより フェルメール《秤を持つ女》 NGAの所蔵作品の中で、目玉中の目玉といえば、 館長が「美術館に何かあったら、これだけは持って逃げなければ」と言う、 西半球で唯一のダ・ヴィンチ作品《ジネブラ・デ・ベンチの肖像》。 その他にも、北方ルネサンスの作品や、ボッチチェリ、ラファエロ、 エル・グレコ、ロココ時代の美術、と 各時代、各地域で素晴らしい名画があるのだが、 日本人が喜びそうなオールド・マスターの作品といえば、 ちょうど今来日している《手紙を書く女》を含めた、 フェルメール作品4点。 もちろんレンブラントなど、他の17世紀オランダの肖像画や 物語画も堂々たるものだ。 印象派・ポスト印象派の作品でいえば、 その所蔵数は約400点。 現在公開中の83点も、美術館の心臓部分ともいうべき 「常設コレクション」9点を含む至宝であることには間違いないのだが、 同館には、富豪のチェスター・ディールが「他館には貸し出さないように」 という条件で寄贈した「チェスター・ディール・コレクション」など、 門外不出のコレクションも存在する。 こちらは、マネの初期の代表作《老音楽師(辻音楽師)》や、 ピカソの「バラ色の時代」の大作《サルタンバンクの家族》を含む 各作家の傑作群で、これだけで1冊名画集が作れてしまうほどの豪華さだ。 こうしたアメリカの美術コレクションに関して、 国立新美術館主任研究員の平井章一氏は、 同展図録『アメリカ人と印象派』の中で以下のように述べている。 「アメリカの大美術館における印象派をはじめとする ヨーロッパ美術コレクションの圧倒的な量と質を見るとき、 そこにある種の執念、執着のようなものを感じずにはおられない。 それはまるで、アメリカの富裕層にとって、 ヨーロッパの優れた作品を買い集め自国の財産とすることが、 国家から負託された使命であるかのようだ。 アメリカにおける印象派コレクションの背景からは、 新興経済国アメリカのヨーロッパに対する憧憬や望郷だけではなく、 嫉妬、劣等感などの複雑な感情もまた、透けて見えるのである。」 実は、今回初めてアメリカに行き、数日過ごしただけなのだが、 取材活動の合間、衣・食・住のささやかなシーンで、 アメリカという国の「若さ」を実感し、 「日本人の持つ歴史と伝統って、スゴイんだな」と考えさせられる シーンが多々あった。 国が持つ歴史や伝統、そこからにじみ出る「厚み」というものは、 どんなにがんばって作ろうとしても、作れるものではないのだと。 それはヨーロッパで仕事をしている時には思いもよらない感情だったが、 平井氏の言うように、アメリカの目を見張る美術コレクションが、 ヨーロッパ文化への「憧憬」「望郷」「嫉妬」「劣等感」から来るものであれば、それはヨーロッパの名画を所有することが、 文化国家としての「厚み」をなんとか獲得しようとしたことの 表れと考えることもできるだろう。 しかし、そこにどんな理由や思惑、隠れた心理があるにせよ、 NGAをはじめ、アメリカの富豪たちが築き上げたコレクションは素晴らしい。 同じ印象派でも、ヨーロッパの美術館にある作品よりも、 「鮮度」や「目新しさ」が感じられる。 これは単に、アメリカのコレクションを見慣れていないこちらにも 問題があるのかもしれないが、 確実に観る者を惹きつけてやまないその名作群は、 歴史や伝統に縛られなかったからこそ、 自由な見方で素晴らしい作品を購入できたコレクターたちの、 審美眼と判断力の賜物ということができるのだ。 ※「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」の 開催情報は変更となる場合があります。 最新の情報は、公式サイト、ハローダイヤル(03−5777−8600) でご確認ください。
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