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「In Transit  イン・トランジット」

「たかが肘掛け、されど肘掛け」

[2012年2月 2日]

前回、機内で隣同士になった人と
座席の肘掛けを分け合う話を書きましたが、
読者の方から
「肘掛けの取り合いでは無言の戦いがある」
とコメントをいただきました。




確かに。
映画館やほかの乗り物に比べて、
航空機のエコノミークラスの肘掛けは細いですね。
大柄な人には隣人と共有するアームレストの争奪は
重要な問題かも。

私が航空会社に勤務していた頃の話ですが、
機内で離陸を待つ見知らぬ同士の男性旅客2人が
肘掛け争奪戦をヒートアップさせて、
結果、共に出発前に航空機から降ろされた、
ということがありました。

ラウンジなどで酒を飲み過ぎて酩酊状態になり
搭乗を拒否される旅客は時々いますが、
肘掛けの取り合いで出発を取り消されるとは・・・、
と関係者も半ば呆れた記憶があります。

その便は、日本から北米行きの国際線でした。
2人の男性は長い空の旅に備えて、
お互い少しでもパーソナルスペースを確保したかったのでしょうか。
座席につくとすぐに、無言でお互いの肩・腕を押し合い、
肘掛けの取り合いになったのです。



争いはじょじょにヒートアップし、
次第に罵声を浴びせ始め、
ついには互いの胸ぐらを掴み合う状況にまで発展。

通常、肘掛けの使い方までは口出ししない客室乗務員も
さすがに見過ごせず、
口頭でいさかいを収めようとしましたが効果ナシ。
最終的に操縦室から最高責任者の機長が呼ばれました。



機長の行動は、
まず争いをいさめ、
客室乗務員と本人と周囲の乗客から、
別々に状況説明を聞くというもの。

出発前の限られた時間での迅速で適切な行動ですが、
「周囲の乗客から状況を聞く」というのがミソで、
乗客の多くは2人の男性のケンカに「恐怖を感じた」
と話したのです。

機長の判断は、「輸送の拒否」。つまり降機命令です。
その根拠はエアラインと旅客の間のいわば「契約」である
「航空輸送約款」の条項です。
多くの会社の約款には、
次のような場合には会社は旅客の輸送を拒否できると書かれています。

・他の旅客に不快感を与え又は迷惑を及ぼすおそれのある場合
・当該旅客自身若しくは他の人又は航空機若しくは物品に
危害を及ぼすおそれのある行為を行う場合。
・乗務員の業務の遂行を妨げ、又は、その指示に従わない場合。
(参考:ANA「国際運送約款」より抜粋)

つまり2人は機内で周囲の旅客に迷惑をかけ、
客室乗務員の指示に従わなかった、
航空機の安全運行に影響を及ぼす恐れがあった、
という理由で飛行機に乗ることを拒否されたわけです。

たかが肘掛け、されど肘掛け。主張もほどほどに、というところでしょうか。



自分は航空券を買っているんだから
出発ゲートに遅れて着いてもフライトは待っているのが筋だとか、
機内では何をしようと客の勝手だなどと、
冗談交じりに言う人がときどきいますが、
チョット違いますね。
そういう方こそ旅行前に一度、
ホームページなどで公開されている約款に目を通すといいですね。
飛行機内が公共スペースであることを再認識できるでしょう。

ちなみに搭乗拒否された2人は、
会社の人道上かつ旅客サービス上の判断で、
翌日の同じ便で出発しました。

飛行中に機内からも、到着地からも連絡がなかったので、
十分に反省しつつ、仲良く隣人と肘掛けを分けあったに違いありません。
旅客情報の申し送り事項で、
機中、客室乗務員からさんざんからかわれた可能性はありますが(笑)。


 

 

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